どれだけ。
どれだけ逃げ場をつぶせば、この相手は手元に転がり落ちてきてくれるのだろう。
出会ったときから、既に退路などなかったはずなのに。
戦いを重ねていくたびに、一つ、また一つと逃げ場を失っているはずなのに。
いつも何かしら、逃げ道を、口実を見いだしては、するりとこの手からすり抜けていく。
探偵としての自分に揺らぎ、ダブルとしての自分に揺らぐ。
自分が何もかも請け負うことで、傷つくことで、周りを守ったつもりになっている。
守っているつもりならば、守られてやろう。
欲しがりで、寂しがり屋で、誰よりも自分に自信がない君の、僅かな矜恃を守ってやれるのなら、
それくらいのこと、大したことではないのだ。
庇護される側に甘んじることなど訳はない。
僕ならいくらでも満足させてやれる。
でも翔太郎、君は早く気づくべきだ。
君が契約した相手が何者なのかを。
今も時折、視界の端にちらつく、白をまとった男。
名前をくれた人。生き様を示してくれた人。
彼に名前をもらって、僕は「人」になった。ただし半分の。
あの人を失ったときの、君の叫び声が今も耳の奥で響いている。
まるで身を引き裂かれるような、その悲痛な声を聞いたときに、僕は手を伸ばさなくてはと思ったんだ。
たとえそれが仕組まれていたものだとしたって、
いや、偶然が重なっただけの意味のないものだとしたって。
僕が見つけたんだ、君を。
君の存在を手に入れて、僕は初めて一個の「人」になれた。
僕が選んだ。
僕はあの時からとっくに覚悟を決めているのに。
ビギンズナイトを終わらせることは出来ない。
僕たちは二人で一つ。己の、そして互いの罪を数え続ける。
今、君の隣にいるのは他の誰でもない僕で、そして君は僕以外を選びようがないのだから。
だから翔太郎。
早く諦めて落ちてくればいい。
- end -