Unpleasant truth


「アンクって、アイス食べてるとき本当に嬉しそうだよな」

思わず、目を剥いて目の前の男を凝視してしまった。
手にしていたアイスが、宙に浮いたまま、やがて空気に触れた部分から滴を滴らせる。

「……」

溶けたアイスが腕を伝うのに気づいて、アンクは舌打ちをした。慌てて袖で拭えば、あまったるい香りが漂うと共に、べたべたとした感触が腕に張り付き、その不快さに眉が寄る。
返す言葉もなく、ただイライラと腕を擦り、なおも滴るアイスに口を寄せて舌で舐め取る。

「アンク?」
「………」

相変わらずこの男が突然言い出すことは理解ができない。正直、理解したくもない。ならば無視をするだけだ。
そもそも何だって人がものを食っているところを、無言で見ているのだ。気持ちが悪い。
嬉しいだとか嬉しくないだとか、そういう感情を勝手にグリードに当てはめて、それで満足だとでもいうのか。
その割りに映司の言葉には、全く何の感傷も見いだせず、思ったことをそのまま口に出したといった風だった。それがまた癪に障る。分かったような口をきいたのであれば、存分に罵声を浴びせてやれたのに。
アンクは、映司を無視したまま、目の前のアイスに集中することにした。己は、貴重な今日の分を、何者にも邪魔されず味わいたいだけだ。それだけだ。
だが、アンクの仕草を一体どう捉えたものか、しばらくアンクの様子に見入っていた映司が、やがて首を傾げた。

「あれ、違ってた?ごめん、アンク」

思わず、かっとなった。

「映司…!だからテメェは腹が立つんだよ!!」

――いちいち謝るんじゃねぇよ、ムナクソ悪ぃんだよ!!

むしゃくしゃする思いに任せ、折角少しずつ舐めていたアイスを、がしがしと歯でかみ砕き、口の中で姿を変えていく過程を楽しむこともなく喉奥に流し込む。
ゆっくりと味わうはずだったそれが、呆気なく形を無くしたことに、アンクの苛立ちはいや増した。
口に含んだ冷たいアイスが舌を痺れさせ、歯と喉とに痛みすら与える。
気管を、そして肺の辺りを、食道を胃を、アイスはどこまでもアンクの中を伝っていきながら臓腑に染み通り、身体の中をじんと冷やしていく。その全てをどこか遠いような感覚で味わいながら、アンクはちくしょうと映司を罵った。
しかし映司に全く堪えた様子はなく、彼はもう一度首を傾げた。

「じゃあ、逆に図星?」
「……映司テメェ…ぶっ殺す」

冷たかったはずのアイスが、アンクの中で次第に熱を持ちはじめる。
腹の奥に落ちるもの、多分それこそが真実だった。

- end -


2011/10/25 up
互いに、別に理解してもらおうなんて、そもそもそんな発想すらまるでない彼らが酷くて好き。 自分で勝手に納得する。それだけ。 納得して自己完結させた部分が、意外に逸れていないところが愛しいと思う。
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